不動産売買仲介の越境に関する覚書テンプレート 売買前の境界確認と撤去・承継の書き方 Excel無料DL アイキャッチ
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越境に関する覚書テンプレート無料DL【Excel雛形・記入例つき】|撤去条件・承継の書き方と売買前の境界確認の段取り【売買仲介向け】

越境に関する覚書の無料Excelテンプレートを、記入例つきでダウンロードできます。室外機・庇・塀・樹木などの越境を売買の前にどう確かめ、撤去の条件や、買主・次の所有者へ引き継ぐ条項をどう書くかを、売買仲介の実務の順に解説します。境界確認の段取り表と、仲介会社が関わってよい範囲(弁護士法で禁じられた「非弁行為」との線引き)も整理しました。

越境覚書境界確認テンプレート売買仲介契約実務

室外機が隣の土地に20cmはみ出している。庇が境界の上空を越えている。隣の木の枝が、こちらの駐車場に垂れている。

事業用の土地や一棟ビルの売買では、こうした越境が、測量して初めて分かることがあります。契約の前に分かれば、条件を整理して前に進めます。ところが決済の直前に分かると、買主の金融機関から確認を求められたり、買主が不安になって話が止まったりします。

結果を分けるのは、越境があるかどうかより、「売買の前に、隣地と何を決めて、書面に残したか」です。そこで使われるのが、越境に関する覚書です。

この記事では、覚書に何を書くか(とくに撤去の条件と、次の所有者への承継の書き方)、売買の前にどの順序で境界確認を進めるか、そして仲介会社がどこまで関わってよいかを、売買仲介の実務の順に整理します。

記事の最後まで読まなくても使えるよう、覚書の記入用テンプレートと記入例、境界確認の段取り表、越境物の現地確認リストをExcelにまとめて無料で配布しています。

無料テンプレート

越境に関する覚書テンプレート(Excel・記入例+境界確認の段取り表つき)

隣地との越境(室外機・庇・塀・樹木の枝など)を、売買の前に書面で整理するための記入用テンプレート。土地の表示・境界の確認・越境物の特定・現状の容認・撤去と是正の条件・維持管理と損害・第三者への承継・協議・添付書類の9条と署名押印欄を配置し、A4縦1枚で印刷できます。事務所ビルの室外機と庇が越境しているケースの記入例、資料の取得から署名押印までの7工程を管理する段取り表、事業用・収益物件でよく出る越境8パターンの現地確認リスト、出典つきの注意点(効力・筆界・仲介会社の関わり方)も収録しています。

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越境は「見つけたあと」より「売買の前に書面にしたか」で決済が変わる

越境は、見つかった時期によって、選べる手が大きく変わります。

見つかった時期起きやすいこと取れる手
媒介を受けた直後(資料の確認・現地の確認)売主と対応を相談する時間がある測量の依頼、隣地との覚書、概要書への記載
買付・条件交渉の段階価格や引渡し条件の再交渉越境を前提にした条件で、承諾・契約へ進む
契約の後・決済の前決済の延期、事前の説明との食い違い事実をただちに買主へ説明し、覚書か特約で整理する
引渡しの後撤去の費用や損害の負担をめぐる争い当事者の協議、専門家への相談

表の下の段ほど、仲介会社の責任が問われやすくなります。

全日本不動産協会の法律相談では、契約の後に越境が分かったのに買主へ説明しなかった仲介会社について、説明義務違反を認めた裁判例(東京地裁平成25年1月31日判決)が紹介されています(仲介会社の越境についての説明義務・全日本不動産協会)。

この事案では、売主は契約の時点で「越境はない」と伝えていました。ところが決済までの測量で、境界のブロック塀が隣地の中に完全に入り込んでいると分かります。仲介会社は測量図を買主に渡しましたが、越境の事実は説明しませんでした。解説では、仲介会社の説明義務は契約の前に限られず、宅建業法に列挙された事項にも限られない、と整理されています。

もう一つ、境界の問題の大きさを示す数字があります。当事者どうしで境界が決まらず、法務局の筆界特定の手続に持ち込まれて処理された件数は、令和6年度で1,864件(速報値)でした(内閣官房の資料・筆界特定の推進(PDF))。

越境は、見つけたら早く、書面にしておく。これがこの記事の出発点です。

越境に関する覚書とは──境界確認書・筆界確認書との違い

越境に関する覚書は、越境物があることを当事者どうしで確かめ、その扱いを取り決める書面です。当面そのまま置いてよいか、いつ誰の費用で撤去するか、土地を売ったときにどう引き継ぐか。法律で様式が決まった書面ではありません。

名前の似た書類と混同されやすいので、役割を並べます。

書類・手続何を決める・確かめるか誰が作る・行う当事者の合意で決められるか
越境に関する覚書越境物があることと、その扱い(存置・撤去の条件・費用・承継)当事者(売主と隣地所有者)。文言は専門家に確認決められる(当事者の間の約束)
境界確認書(筆界確認書と呼ぶことも)隣り合う土地の境界の位置を、双方の所有者が確認した記録土地家屋調査士が測量し、双方が署名押印位置の確認はできるが、登記上の筆界そのものは合意で動かせない
確定測量図隣地所有者の立会い・確認を経た境界と面積土地家屋調査士―(測量の成果物)
筆界特定登記された境界(筆界)の、現地での位置法務局の筆界特定登記官(申請による)合意は要らない。ただし所有権の範囲を決めるものではない

ここで押さえたいのが、「筆界」と「所有権の範囲」は別のものだという点です。

法務省は、筆界を、土地が登記されたときにその範囲を区切るものとして定められた線だと説明し、所有者どうしの合意などで変えることはできないとしています。筆界と所有権の範囲は一致することが多いものの、一致しないこともあります(筆界特定制度・法務省)。

さらに法務局は、筆界特定で筆界の位置が明らかになっても、境界標の設置や、塀などの越境物の撤去は、関係する当事者で合意する必要があると説明しています(筆界とは・千葉地方法務局)。

境界を確かめる書類と、越境物の扱いを決める書類は、役割が別です。境界確認書だけでは、室外機をいつ撤去するかは決まりません。

覚書で決められること・決められないこと

覚書で決められること覚書では決められないこと
越境物を当面そのまま置いてよいか登記された境界(筆界)の位置を変えること
撤去・是正の時期と、費用の負担覚書に署名していない第三者(次の所有者など)を当然に縛ること
維持管理の方法と、事故が起きたときの責任越境している側に、隣地の権利を与えること(与えないと明記しておく)
売買・賃貸のときに内容を引き継ぐ約束建築基準法などの行政上の規制を外すこと

右の列の2行目が、実務でいちばん問題になる点です。後の章で、承継の条項の書き方として詳しく扱います。

無料テンプレート

越境に関する覚書テンプレート(Excel・記入例+境界確認の段取り表つき)

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事業用・収益物件でよく出る越境8パターン

住宅地の越境は、塀や樹木が中心です。事業用・収益物件では、これに設備が加わります。テナントが後から付けた物や、上空・地中の物は、図面にも売主の記憶にもないことがあります。

No越境物見落としやすい理由覚書での扱いの例
1エアコン室外機・架台テナントの入れ替えで増設され、図面にないことがある更新・移設のときに越境しない位置へ移す
2庇・バルコニー・出窓上空の越境は、地面の境界標だけを見ていると気づかない建替え・大規模修繕のときに是正する
3雨樋・排気ダクト・換気フード小さく、排水・排気の向きまで見ない更新のときに是正し、排水・排気の向きも決める
4看板・袖看板・アンテナテナントの所有物で、売主が把握していないテナントとの取り決めも含めて、撤去・移設の時期を書く
5塀・擁壁・フェンスどちらの所有物か(共有か)が分からない所有者と、建替え・老朽化のときの扱いを書く
6樹木の枝・根季節で張り出しが変わる枝を切る手順と費用の負担を書く
7給排水管・ガス管地中にあって見えない引込み管の扱いと、掘削のときの立会いを書く
8建物の基礎・地中の埋設物解体した後に残っていても分からない建替え・解体のときの撤去を書く

上空の2と4、地中の7と8は、現地で上と下を意識して見ないと拾えません。配布しているExcelの「越境物の現地確認リスト」は、この8パターンを見る場所と見つけ方のコツつきで並べ、有・無・不明と、越境の向き・幅・写真番号を書き込めるようにしています。

なお、建物そのものの位置については、越境とは別の定めがあります。民法234条は、建物を建てるときは境界線から50センチメートル以上離すとしています。一方、防火地域・準防火地域で外壁が耐火構造の建物は、建築基準法63条により外壁を隣地境界線に接して設けることができます。この場合は民法234条の距離の定めによらないとした最高裁の判決(平成元年9月19日)があります。古いビルが境界ぎりぎりに建っているときは、越境の有無とは分けて確認してください(条文は民法・e-Gov法令検索建築基準法・e-Gov法令検索)。

接道・法令上の制限・設備まで含めた現地調査の全体像は、こちらにまとめています。

売買前の段取り7ステップ──境界確認から覚書の締結まで

越境の整理は、順序を間違えると二度手間になります。とくに、測量の前に覚書を作ってしまい、測量の結果で越境の幅が変わって作り直す、という失敗が起きがちです。

目安の期間は一般的な例で、土地の状況や、道路との境界(官民境界)の確認が要るかどうかで大きく変わります。

1. 資料をそろえる(目安1〜3日)

登記事項証明書・公図・地積測量図・建物図面を取ります。地積測量図があるか、いつ作られたか、境界点がどう記載されているかを確かめます。作られた時期が古い図面は、現地で境界を復元しにくいことがあります。

2. 現地を見る(目安1日)

境界標があるか、室外機・庇・塀・樹木・配管がどこにあるかを見て、写真を撮ります。売主に立ち会ってもらい、「いつ・誰が付けた物か」をその場で聞いておくと、後の覚書で所有者を書くときに迷いません。

3. 隣地の所有者を確かめる(目安2〜5日)

登記事項証明書で、隣地の所有者と住所を確かめます。誰がどう連絡するかは、売主と決めてから動きます。隣地も法人なら、担当の部署と決裁の流れも聞いておきます。

4. 測量と境界確認(目安2〜3か月)

売主が土地家屋調査士に測量を依頼し、隣地所有者の立会いで境界を確認します(確定測量)。いちばん時間がかかる工程なので、契約日から逆算して最初に日程を押さえます。

5. 越境を確定させる(測量と同時)

測量図に越境物の位置と幅を落とし、どちらの物が、どちらへ、何cm出ているかを確定します。覚書に書く数字は、この段階の実測値です。

6. 覚書の文案をつくる(目安1〜2週間)

テンプレートに、事実(越境物・位置・幅)と、撤去の条件・承継の方法を入れ、売主と隣地所有者に確認してもらいます。条件で意見が分かれたら、この時点で弁護士に相談します。

7. 署名押印と、契約への反映(契約の前まで)

双方が署名押印し、写しを重要事項説明書と売買契約書の添付資料にします。買主には、覚書の内容と、承継の方法を説明します。

売買に必要な書類の全体の流れは、こちらのチェックリストで確認できます。

仲介会社・土地家屋調査士・司法書士・弁護士の役割分担

担い手越境・境界で担うこと仲介会社が頼む場面
仲介会社資料の取得と整理、現地の確認、日程の調整、重要事項説明・契約書への記載
土地家屋調査士測量、境界確認の立会い、確定測量図・越境位置図の作成、筆界特定の手続の代理測量図がない・古い、越境の幅を確定したい
司法書士決済での所有権移転などの登記決済の登記、隣地所有者の相続登記がされていないときの相談
弁護士争いのある交渉の代理、覚書・特約の文言の法的な確認、訴訟隣地所有者が事実や条件を争っている、文言の判断に迷う

土地家屋調査士会には、境界の問題を話し合いで解決するための「境界問題相談センター」(裁判外紛争解決手続=ADR)が置かれています。特別研修を受けて認定された土地家屋調査士(ADR認定土地家屋調査士)が、弁護士と共同で当事者の代理人になれる仕組みです(境界問題相談センター・日本土地家屋調査士会連合会)。

覚書に書く9項目と記入例

覚書に書く項目を、テンプレートの条文の順に並べます。記入例は、事務所ビルの室外機2台と庇が隣地へ出ているケースです(社名・所在地はすべて架空です)。

項目書くこと記入例
1土地の表示両方の土地の所在・地番・地目・地積(登記簿どおり)見本区見本町一丁目2番3・宅地・412.35㎡
2境界の確認どの図面の、どの境界点を結んだ線か令和8年8月20日付の確定測量図の K1〜K4
3越境物の特定種類・数量・位置・幅・写真の番号室外機2台と架台(最大18cm)、庇(最大32cm)
4現状の容認当面そのまま置いてよいこと、権利は与えないこと現状のまま置くことを認める。権利は与えない
5撤去・是正の条件いつ、誰の費用で、どの期限までに建替え・室外機の更新のとき、越境物の所有者の費用で。請求から3か月以内
6維持管理と損害管理する人、立ち入りの方法、事故の責任所有者が管理。立ち入るときは7日前までに連絡
7第三者への承継売買・賃貸のとき、内容を引き継がせること売買契約書の特約に書き、写しを買主へ渡す
8協議定めのない事項の扱い誠実に協議して定める
9作成通数・添付書類通数と、添付する図面・写真2通作成。越境位置図・写真・測量図の写し

テンプレートでは、甲を「越境物の所有者」、乙を「越境を受けている土地の所有者」に固定しています。こうしておくと、売主がどちらの立場でも同じ書式が使えます。売主の物が隣地へ出ているなら売主が甲、隣地の物が入ってきているなら売主が乙です。

第4条には、「この容認は、甲に対し、乙地について所有権・地上権・賃借権その他いかなる権利も与えるものではない」という一文を入れています。越境を認めたことが、後から「使ってよいと合意していた」と読まれないようにするためです。

撤去条件の書き方

撤去の条件は、「将来、撤去する」とだけ書くと、ほぼ確実に揉めます。いつが「将来」なのかを、きっかけ・期限・費用の3つで決めておきます。

揉めやすい書き方揉めにくい書き方
将来、撤去する越境物の所有者の土地の建物を建て替え、増築し、または大規模修繕するときに、その所有者の費用で撤去する
求めがあれば撤去する越境を受けている土地の所有者が書面で求めた日から3か月以内に、越境物の所有者の費用で撤去する
室外機は移設する室外機を更新するときは、越境しない位置へ移設する

事業用の建物では、稼働中の室外機や看板をすぐに外すのは現実的でないことが多く、「当面は認めて、建替えや更新のときに直す」形がまとまりやすくなります。逆に、越境を受けている側が近く建て替える予定なら、そのための請求の条項を必ず入れておきます。

承継条項の書き方

覚書でいちばん誤解が多いのが、承継の条項です。

不動産流通推進センターの相談事例では、越境の覚書に、所有者が第三者に代わっても内容は承継される、という趣旨の条項を入れることは多いものの、その合意が第三者に直接の効力を持つわけではない、と解説されています(越境されているビルの売買に伴う撤去承継合意文書の有効性・不動産流通推進センター)。

つまり、覚書に承継の条項を入れただけでは足りません。次の3段で備えます。

  1. 覚書に、売買・賃貸のときは内容を書面で告げ、覚書上の地位を承継させる、という条項を入れる。契約上の地位の移転には相手方の承諾が要る(民法539条の2)ため、相手方があらかじめ承諾する旨も書いておく
  2. 売買契約書の特約に、買主が覚書の内容を承諾し、売主の地位を承継することを書き、覚書の写しを買主に渡す
  3. 決済の後、新しい所有者と隣地所有者とで、改めて覚書(または承継の確認書)を交わす

3つ目まで済ませておけば、次の売買のときにも、同じ説明を最初からやり直さずに済みます。

無料テンプレート

越境に関する覚書テンプレート(Excel・記入例+境界確認の段取り表つき)

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覚書の効力と限界──次の所有者に効くか・署名を断られたら

覚書が効く範囲

覚書は、署名した当事者の間の約束です。当事者の間では効力を持ちますが、ここまで見たとおり、登記された境界(筆界)は動かせず、第三者を当然には縛りません。覚書は万能の書面ではなく、「当事者の間で、越境物の扱いを先に決めておく書面」です。

越境した枝は、2023年4月から自分で切れる場合がある

樹木の枝については、2023年4月1日に施行された改正民法で扱いが変わりました(改正の内容は法務省の解説冊子「ここが変わる!不動産・相続に関するルール(PDF)」でも紹介されています)。

場面できること根拠
隣地の木の枝が境界線を越えている(原則)木の所有者に、枝を切るよう求める民法233条1項
催告しても相当の期間内に切らない/所有者や所在が分からない/急迫の事情がある土地の所有者が、自分で枝を切り取れる同条3項
木が数人の共有各共有者が、枝を切り取れる同条2項
根が境界線を越えている自分で根を切り取れる同条4項

条文で自分で切れる場面が増えても、「相当の期間」がどれくらいか、費用をどちらが持つかで揉める余地は残ります。売買の前なら、覚書の第5条・第6条に、枝を切る手順と費用の負担を書いておくほうが確実です。

署名を断られたら

隣地所有者が、覚書への署名を断ることもあります。そのときは、署名を求めて交渉を続けるより、次の順で整理します。

  1. 越境の事実を、測量図と写真で特定する
  2. 重要事項説明と売買契約書の特約で、越境の事実と「覚書は取れていない」ことを買主に告げる
  3. 価格や引渡しの条件に反映させる

越境の事実や境界の位置そのものを争われているときは、筆界特定制度の利用を検討します。申請の手数料は土地の価格で決まり、法務省は、申請人の土地と隣の土地の価格の合計が4,000万円なら8,000円という例を示しています(筆界特定制度・法務省)。ただし筆界特定は所有権の範囲を決めるものではなく、越境物の撤去は、別に当事者の合意が要ります。話し合いの場としては、先に触れた境界問題相談センター(ADR)もあります。

仲介会社が関わってよい範囲──非弁行為との線引き

越境の整理は、途中から「法律事件」に変わることがあります。

弁護士法72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関して代理や和解などの法律事務を取り扱うことを業とするのを禁じています(弁護士法・e-Gov法令検索)。

隣地所有者が素直に署名してくれる段階と、撤去の費用や解決金で主張がぶつかっている段階では、仲介会社の立ち位置が違います。どこからが違反にあたるかは個別の事情で判断され、仲介会社向けに線引きを示した公的な資料は、今回調べた範囲では見当たりませんでした(2026年9月時点)。次の表は、条文の文言から見た、安全側の目安です。

場面仲介会社の関わり方の目安
登記簿・測量図の取得、現地の確認と写真売買の段取りとして行う
隣地所有者への連絡の段取り、立会いの日程の調整売主の了承を得て行う(売主の意向を伝える役にとどめる)
テンプレートの提供、事実(越境物・位置・幅)の記入の補助行う。条項の法的な判断はしない
隣地所有者が撤去の条件・費用に異議を述べ、主張が対立している代わりに交渉を続けず、弁護士へつなぐ
越境の事実や境界の位置そのものを争われている土地家屋調査士(筆界特定・ADR)や弁護士へつなぐ
解決金・補償金の金額を決める交渉を任される引き受けず、弁護士へつなぐ

迷ったときの分かれ目は、「相手が事実や条件を争っているかどうか」です。争いが見えた時点で、専門家へつなぐ準備を始めてください。

この記事は一般的な情報の提供で、法律相談ではありません。個別の取引は、弁護士・土地家屋調査士などの専門家に確認してください。

重要事項説明・売買契約書・概要書への書き方と、よくある失敗

宅建業法35条の重要事項説明の列挙事項には、「越境」という言葉は出てきません。ただ、冒頭の裁判例のとおり、仲介会社の説明義務は列挙された事項に限られません。越境があるなら、重要事項説明書の「その他の重要な事項」の欄や別紙に書き、覚書の写しを添付します。

重要事項説明書の作成の抜け漏れは、こちらのチェックリストで確認できます。

重説と契約書の特約の文例

売主の物が隣地へ出ている場合(売主=甲)の例です。

本物件建物のエアコン室外機および庇の一部が、別紙越境位置図のとおり隣地へ越境している。売主は隣地所有者との間で令和○年○月○日付「越境に関する覚書」を締結しており、買主はその内容(建物の建替え時等に越境物を撤去すること等)を承諾のうえ、売主の同覚書上の地位を承継する。

隣地の物が入ってきている場合(売主=乙)の例です。

本物件土地には、隣地所有者所有のエアコン室外機および庇が、別紙越境位置図のとおり越境している。売主は隣地所有者との間で令和○年○月○日付「越境に関する覚書」を締結しており、買主はその内容を承諾のうえ、売主の同覚書上の地位を承継する。

覚書が取れなかった場合の例です。

本物件と隣地との間には、別紙越境位置図のとおり越境物が存するが、隣地所有者との間で越境物の扱いに関する書面の合意は得られていない。買主はこの事実を承知のうえで本物件を買い受ける。

売主が宅建業者のときは、買主に不利な特約に宅建業法40条の制限がかかります。容認の特約の書き方は、専門家に確認してください。

契約書・重要事項説明書のチェックにAIをどう使うかは、こちらで整理しています。

よくある失敗6つ

失敗何が起きるか防ぎ方
目測の数字を覚書に書く後の測量で数字が変わり、覚書を作り直す測量図に落としてから書く
撤去の条件を「将来撤去」とだけ書くいつ撤去するかで揉めるきっかけ・期限・費用の3つを書く
承継を覚書の条項だけに頼る次の所有者との間で効かない特約に書き、写しを渡し、決済後に改めて書面を交わす
上空・地中を見ない庇や配管が決済の直前に見つかる8パターンの確認リストで上と下を見る
テナントの物を売主の物として書く撤去を約束しても実行できない所有者を確かめ、賃貸借契約の取り決めも見る
争いになっても仲介会社が交渉を続ける非弁行為のおそれ、責任の所在があいまいになる争いが見えた時点で弁護士へつなぐ

概要書に「越境あり」と書いたあと、誰に送るか

覚書まで整えたら、物件概要書(マイソク)にも、越境の事実と覚書の有無を書きます。書かずに出して、内見や買付の後に説明するのは、表の「見つかった時期」を自分で遅らせるのと同じです。

ここで、覚書そのものより手前の話をします。

スマッチュの運営観測では、業者ネットワークが育った営業担当者の場合、月に300件を超える物件情報が流入してきます。一方で、実際に概要書を作り、顧客に当てられているのは月30〜50件ほど。残りは「見るだけ」で流れていきます。

越境のある物件は、顧客によって「それなら見送る」と「条件しだいで検討する」に分かれます。全員に同じ資料を送れば、見送る顧客には手間をかけさせ、検討できる顧客には届くのが遅れます。条件付きの物件ほど、送り先の見極めに時間がかかるのです。

スマッチュでは、顧客ごとに「容認_物件状態」として「越境あり」「私道負担あり」などを登録できます。登録した顧客は、越境のある物件でも、マッチングの判定で減点されない条件として扱われます。顧客の条件を文章のまま貼り付ければ、AIが「越境でも可」といった記載を読み取って、容認の条件に入れます。物件資料をアップロードすると、AIが物件概要書を作成し、条件の合う顧客とのマッチングと、提案メールの下書きまで自動で進みます。

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まとめ

越境は、見つかった時期が遅いほど、選べる手が減ります。売買の前に見つけて、書面にしておくことが基本です。

押さえることは3つです。第一に、覚書は当事者の間の約束で、登記された境界(筆界)は動かせないこと。境界を確かめる書類と、越境物の扱いを決める書類は別に用意します。第二に、撤去の条件は、きっかけ・期限・費用の3つで書くこと。第三に、承継は覚書の条項だけに頼らず、売買契約書の特約と、決済後の書面まで3段で備えること。

配布しているExcelは6シート構成です。

シート内容
使い方ガイド使う順序、注意点(効力・筆界・仲介会社の関わり方)、出典
越境に関する覚書(記入用)第1条〜第9条と署名押印欄。色の付いたセルに入力して、A4縦1枚で印刷できる
記入例(室外機・庇の越境)事務所ビルの室外機2台と庇が隣地へ出ているケース(社名・所在地は架空)
境界確認・越境の段取り表7つの工程を、担当・目安の期間・期限・済の欄で管理する
越境物の現地確認リスト8パターンを、見る場所・見つけ方・覚書での扱いと一緒に確認する
スマッチュで使う越境のある物件を、受け入れられる顧客に絞って届ける方法

自社の書式を見直すときの下敷きとして使ってください。越境のある物件を、条件の合う顧客に早く届けたいときは、スマッチュも試してみてください。

著者:中西 潤平(Spira Solutions 代表)

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