不動産査定書作成完全ガイド|3手法・必須10項目・売主が納得する伝え方
物件情報処理

不動産「査定書」作成 完全ガイド【2026年版】|価格根拠の3手法・必須記載項目・売主が納得する伝え方

不動産査定書の書き方に迷っていませんか?取引事例比較法・収益還元法・原価法の3手法を使いこなし、売主が納得する査定書の作り方を仲介実務の視点で解説。必須10項目・失敗5パターン・AIツール活用法も収録。

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「売主さんに査定額を出したけど、根拠を説明しきれなかった」

仲介の現場で、一度はこういう経験をしている方は多いはずです。査定書は「出せばいい」ものではなく、売主が「なるほど、この値段で売り出そう」と納得するための説明ツールです。

査定書の完成度が仲介依頼を取れるかどうかを左右する。そう言っても言い過ぎではありません。

この記事では、査定書の基本的な位置づけから、価格根拠の3手法の使い方、必須記載項目10点、そして売主が納得する伝え方まで、仲介実務の視点で丸ごとまとめます。


査定書とは何か|物件概要書・マイソクとの違い

「査定書」「物件概要書」「マイソク」は似た書類に見えますが、目的も対象読者もまったく違います。混同すると、必要な情報が足りなかったり、逆に余計な情報を入れすぎたりします。

書類誰向け目的使うタイミング
査定書売主向け価格根拠の提示・仲介委任の取得売り出し前(提案段階)
物件概要書買主向け物件情報の提供売り出し後(問い合わせ対応)
マイソク(図面)業者間・買主向け物件の要約・図面売り出し後〜商談中

査定書の目的は**「なぜこの価格なのか」を売主に納得してもらうこと**です。買主や他の業者に見せるものではありません。

仲介の流れで言えば、査定書は仲介委任を受けるための「提案資料」です。ここで売主の信頼を得られないと、専任媒介はもちろん、一般媒介でも選んでもらえません。

査定書に法定書式はない

宅建業法上、査定書の書式に決まりはありません。ただし「だいたいこのくらいです」という口頭の目安では、売主からの信頼は得にくい。最低限含めるべき要素は業界内でほぼ共通しており、それが第3章で解説する10項目です。

フォーマットは自社で用意しているケースが多いですが、まだ社内に定まった書式がない場合は、本記事のチェックリストをそのままテンプレートとして使ってください。


価格査定の3手法|どれをいつ使うか

不動産査定には大きく3つの手法があります。物件の種類や状況によって使い分けることが、信頼される査定書の第一歩です。

手法向いている物件基本的な考え方
取引事例比較法居住用(戸建・マンション)近隣の成約事例と比べて価格を導く
収益還元法収益物件(アパート・店舗・事務所)将来の家賃収入から逆算して価格を出す
原価法建物評価・参考補強同じ建物を今建てたらいくらかかるかで評価

取引事例比較法|居住用物件の主役

最も多くの場面で使う手法です。対象物件と条件が近い成約事例を3〜5件集め、面積・築年数・駅距離・向き・階数などの要因を補正して査定額を算出します。

補正の基本的な考え方

対象物件が事例より優れている要素は上方修正(例:+3%〜+5%)、劣っている要素は下方修正(例:-3%〜-5%)します。複数の補正を積み重ねて最終的な価格を導くのが実務的な流れです。

補正要因対象が優れていれば対象が劣っていれば
面積(広め)+1〜3%-1〜3%
築年数(新しめ)+3〜5%-3〜5%
駅距離(近い)+2〜4%-2〜4%
向き(南向き等)+1〜3%-1〜3%
階数(高層)+2〜5%-2〜5%

事例はレインズ(REINS)の成約情報から引くのが基本。公示地価・基準地価も参考になりますが、実勢価格との乖離があるため、あくまで補完として使います。

収益還元法|投資家・法人オーナーへの説明に必須

「この物件から得られる年間家賃収入をもとに、適正な利回りで割り戻して価格を出す」のが収益還元法です。アパートやマンション1棟、店舗、事務所などの収益物件では、この手法が前提になります。

直接還元法の基本計算

査定額 = 年間純収益(NOI) ÷ 還元利回り(Cap Rate)

たとえば年間家賃収入240万円・空室率5%・運営費20%のケースだと:

  • 年間純収益(NOI)= 240万円 × (1 − 0.05) × (1 − 0.20) = 182.4万円
  • Cap Rateを7%と設定した場合の査定額 = 182.4万円 ÷ 0.07 ≒ 2,606万円

還元利回り(Cap Rate)の設定が査定額を大きく左右します。エリアの市場利回りを参考にしながら、物件の築年数・修繕リスク・テナントの質などを加味して設定しましょう。

Cap Rate の目安(2026年・参考値)

エリア物件種別Cap Rate の目安
都心3区区分マンション3〜4%
都心〜城南一棟アパート4〜6%
地方都市一棟アパート7〜10%
地方都市店舗・事務所8〜12%

原価法|建物の保険評価・参考補強に使う

「今この建物を再建築したらいくらかかるか」を算出し、経年減価を差し引く方法です。

単独で査定に使うケースは少なく、「収益還元法で出した価格は建物価値としても妥当か」を確認する補完的な役割が主になります。火災保険の評価額算出や、築古建物の解体・再建築コストの参考として使うことが多いです。

3手法の使い分けまとめ

物件種別推奨する手法の組み合わせ
居住用戸建(中古)取引事例比較法(メイン)+原価法(参考)
居住用マンション(区分)取引事例比較法(メイン)
収益アパート・マンション収益還元法(メイン)+取引事例比較法(補強)
更地・土地取引事例比較法(メイン)+路線価査定(補強)
店舗・事務所(収益)収益還元法(メイン)+取引事例(補強)
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査定書に必要な10の記載項目

フォーマットは自由でも、これだけは必ず入れておきたい10項目があります。売主が「見てすぐ分かる」書類にするために、1項目ずつ確認しましょう。

#項目なぜ必要か
物件の基本情報何について査定したかを明確にする
査定根拠(使った手法と事例)価格が根拠に基づくことを示す
取引事例一覧(3〜5件)「近隣でこれだけ売れている」を可視化
各事例との補正表対象物件との差を定量化
査定額(結論)売り出し推奨価格を明示
価格幅(最低〜最高)市場反応によるレンジを示す
売り出し期間の目安いつ頃売れそうかの見通し
売却活動の提案営業計画・広告手法を示す
仲介手数料・手取り概算売主が手取り額を計算できるようにする
作成日・作成者情報書類としての信頼性を担保する

特に重視したい3項目

②査定根拠と③取引事例一覧は、「なぜこの価格か」を納得させる核心部分です。事例は以下の情報を表で並べると比較しやすくなります:

  • 成約年月
  • 所在地(地番不要・エリア表記でOK)
  • 専有面積 / 敷地面積
  • 成約価格
  • 坪単価 / ㎡単価
  • 築年数・構造

⑥価格幅は、「絶対この値段で売れる」という誤解を防ぐためにも重要です。「市場反応が良ければ●●万円、3ヶ月後に価格調整が必要なら△△万円」という形で示すことで、後のトラブルを減らせます。

⑨手取り概算は、売主が最も気になる「実際いくら手元に残るか」を明示します。仲介手数料(税込)・譲渡税の概算・登記費用などを引いた「手取り想定額」を表で示すだけで、売主の安心感が大きく変わります。


売主が納得する査定書の書き方

数字を並べるだけでは査定書は完成しません。売主が「この会社に任せよう」と思う伝え方が、仲介受任の肝です。

高値査定リスクを正直に伝える

「他社より高い査定額を出して媒介を取る」という手法は短期的には機能しますが、売れ残るリスクが高く、結局は売主との関係を壊します。

査定戦略媒介取得売れ残りリスク長期的な評判
高値査定(受任優先)取りやすい高い価格下落で信頼失墜しやすい
実勢価格査定(根拠ベース)競合で不利なことも低い成約→紹介→リピートが生まれやすい

実務での説得ポイントは「最初の2週間が命」というデータを見せることです。新着物件として広告が出る最初の2週間は問い合わせが集中します。ここで成約できない価格設定だと、その後急速に問い合わせが減り、長期化するほど値下げ交渉の標的になります。

「高く出して後で下げる」戦略は、売主にとっても時間と機会コストの損失です。この事実を最初の面談で丁寧に説明することが、誠実な仲介業者としての第一歩です。

価格幅シナリオを3パターンで示す

「絶対にいくらで売れる」という断言よりも、「市場の反応次第でこう変わる」という3シナリオ提示が売主の安心感を高めます。選択肢があることで、売主は「一緒に考えてくれる会社」という印象を受けます。

シナリオ売り出し価格の目安想定売却期間どんな状況か
強気プラン実勢価格の+5〜10%3〜6ヶ月相場より少し強め・市場反応を見る
推奨プラン実勢価格と同水準1〜3ヶ月成約事例と同水準・早期成約を狙う
早期成約プラン実勢価格の-5〜10%1ヶ月以内成約事例より少し下・キャッシュ買い層に響く

売主が選べる状態にすることが重要です。ただし「どれが一番いいですか?」と聞かれた時に、正直に推奨プランを伝える準備も必要です。「御社はどれだと思いますか?」という質問は信頼の入口です。

口頭説明とのセット運用が前提

査定書は「渡して終わり」ではなく、口頭での説明とセットです。特に「なぜこの取引事例を選んだか」「補正率をどう決めたか」の説明が薄いと、「他社の方が高かったけど?」と言われた時に答えられなくなります。

説明の順番としては:

  1. 結論(査定額)を先に伝える
  2. 根拠(取引事例・補正の考え方)を説明する
  3. 売り出しプランと活動方針を提案する

売主は「いくらで売れるか」を最初に知りたがっています。根拠の説明を先にしすぎると途中で飽きられます。結論ファーストで話し、「なぜその価格か」を後から丁寧に説明する順番がベストです。


査定書作成でよくある失敗5パターン

実務でよく見かける失敗を5つにまとめました。自社の査定書と照らし合わせてチェックしてみてください。

#失敗パターン何が問題か対処法
取引事例が古い1〜2年前の事例で今の相場と乖離直近6ヶ月以内の成約に絞る
事例のエリアが広すぎる隣の駅・別の学区の事例を同列に並べる同一小学校区・徒歩圏内を優先
補正の根拠が不明「±10%」と書いてあるが計算根拠なし補正項目・理由を1行以上添える
一つの手法だけに依存収益物件なのに取引事例だけ収益物件は収益還元法を必ず併用
手取り概算がない売主が「手取りいくら?」と後で混乱査定書内に手取り概算表を必ず入れる

失敗①:取引事例が古い(最も多い)

レインズには過去の成約情報が蓄積されていますが、3年前の事例を「近隣事例」として使うと相場とのズレが大きくなります。金利環境・建築費・エリアの人気度は年々変わるため、直近6ヶ月以内の成約を基本にしましょう。

6ヶ月以内に成約事例が少ない場合は、エリアを広げつつ「同等立地」の事例を補足として加え、その旨を査定書に明記します。「事例が少ない理由」を説明することも、売主への誠実な対応です。

失敗②:エリアが広すぎる

「近隣」の定義は物件種別によって変わります。

物件種別「近隣」の目安
マンション(区分)同一建物・同一路線・同一学区
戸建半径1km以内・同一学区
土地同一用途地域・同一路線沿い
収益物件同一エリア・類似商圏

「隣の駅の物件を近隣事例に使った」という査定書は、エリアをよく知っている売主にすぐ見抜かれます。

失敗③:補正の根拠が不明

「対象物件は事例と比べて日当たりが良いので+3%」のように書くと、売主から「なぜ3%?」と聞かれます。

補正率の根拠として実務で使えるのは:

  • 国土交通省の「不動産鑑定評価基準」の補正率範囲
  • 自社の過去成約データから算出した補正実績
  • 市場調査会社のデータ(東京カンテイ・不動産経済研究所等)

どれも使えない場合でも、「弊社の成約実績から、南向き・角部屋は平均+2〜3%の成約事例があります」と経験値ベースで明記するだけで、根拠の透明性が増します。

失敗④:収益物件なのに取引事例だけ

収益物件のオーナーは「利回り」で考えています。「取引事例では●●万円です」だけでは、投資家目線の売主には響きません。

「年間純収益が●●万円・エリアの市場利回りが7%なので、収益還元法では●●万円となります。取引事例と収益還元の両面から●●万円が適正と判断しました」という説明が、収益物件オーナーの納得感を高めます。

失敗⑤:手取り概算がない

「査定額3,000万円で売れましたが、手元に残ったのは2,600万円でした」という後から気づくケースを防ぐため、手取り概算は必ず査定書に入れましょう。

手取り概算の簡易フォーマット

項目金額(例)
売却価格3,000万円
仲介手数料(税込)− 105万円
登記費用(抵当権抹消等)− 5万円
測量費・解体費(必要な場合)− 0〜数十万円
譲渡税概算(居住用特例適用なし)− 0〜数百万円
手取り概算≒ 2,890万円〜

譲渡税は条件によって大きく変わるため「詳細は税理士にご相談ください」と添えておくのが実務的です。


AI・スマッチュで査定精度と作成速度を上げる

取引事例収集と買い手ニーズの可視化

査定書作成で時間がかかるのは、「類似物件の取引事例集め」と「買い手ニーズとのマッチング確認」です。後者は特に手作業だと抜け漏れが多く、属人化しやすい作業です。

スマッチュでは物件情報を入力するだけで、その物件に関心を持ちそうな買い手ニーズを自動でリストアップします。「この物件なら誰が買う可能性があるか」が見えると、査定書の「売り出しプラン」セクションに具体性が増します。

たとえば「築15年・投資用マンション1室・港区・利回り4%前後」という物件であれば:

  • 利回り4%台を許容する資産保全目的の法人
  • 港区ブランドを重視する個人富裕層
  • ローンを活用して運用したい30〜40代

…といった買い手像が見えてくると、「どの広告媒体に出すか」「どんな売り出し文を書くか」が具体的になります。

査定書の需要サイド根拠として活用

スマッチュのAI機能は、物件マッチングが主機能です。ただ「買い手候補が何名いるか・どんな属性か」というデータは、査定書の「売り出しプラン」欄を補強する材料になります。

「この価格帯・このエリアを検討している買い手が現在X名います」という情報は、売主に「需要があることを数字で示す」という意味で有効です。取引事例(過去データ)+買い手ニーズ(現在データ)の両面で根拠を作ると、査定書の説得力が一段上がります。

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まとめ|売主が「なるほど」と言う査定書チェックリスト

査定書は「価格を出す書類」ではなく、「売主と一緒に売却戦略を考える書類」です。以下のチェックリストで最終確認をしてから提出しましょう。

査定書チェックリスト(全20項目)

基本情報

  • 物件の基本情報(所在地・面積・築年数・構造)が正確に記載されている
  • 作成日・作成者(会社名・担当者名・宅建士番号)が入っている
  • 査定の有効期限(「本査定は作成日から3ヶ月を目安」等)を明記している

価格根拠

  • 使った査定手法(取引事例比較法・収益還元法など)が明記されている
  • 取引事例が3〜5件以上・直近6ヶ月以内のものが含まれている
  • 事例の所在地・面積・成約価格・成約年月が表で整理されている
  • 各事例との補正表があり、補正理由が1行以上添えられている
  • 収益物件の場合、収益還元法での試算も入っている
  • エリアの市場動向(金利・需給状況)を1〜2行で補足している

価格・シナリオ

  • 査定額(推奨価格)が明記されている
  • 価格幅(強気〜早期成約の3シナリオ)を示している
  • 各シナリオの想定売却期間が添えられている

売主のための情報

  • 手取り概算(査定額 − 仲介手数料 − 諸費用)の表が入っている
  • 仲介手数料の計算式(上限額)が記載されている
  • 売り出し活動の提案(広告媒体・物件情報の掲出先)が書かれている
  • 想定される問い合わせ層・買い手像が1〜2行で示されている

書類としての体裁

  • ページ番号が入っている(複数ページの場合)
  • 自社のロゴ・連絡先が入っている
  • 口頭説明で補足する項目に「詳細はご説明します」と明記している
  • 競合他社名・固有名詞の批判が入っていない

不動産査定書の質は、売主との最初の信頼関係を決めます。根拠のある価格と丁寧な説明で「この会社なら任せられる」と思ってもらえる査定書を作りましょう。

スマッチュでは、物件情報を入力するだけで買い手候補を自動でリストアップ。査定根拠の「需要サイドの裏付け」を効率よく揃えられます。ぜひ一度試してみてください。

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著者:中西 潤平(スマッチュ代表)